2018年8月26日日曜日

II. サイナスリフト・ソケットリフトとはどんな治療?

II. 上顎臼歯部インプラント治療と上顎洞底挙上術のはなし 
サイナスリフトでインプラント治療を可能に


前歯のインプラント治療以外で難しい場所はどこがありますか?
前歯のほかに、骨量不足でインプラント手術が困難になるのは上顎臼歯部です。
私は他の医院の先生の依頼を受けて出張手術を行っていますが、 依頼の中で最も多い手術は「上顎洞底挙上術」です。 これは、上あごの奥歯部分にインプラントをするための骨を増やす手術になります。


上顎洞(じょうがくどう)とはどういうものですか?
鼻の中には鼻腔という空間があります。その空間と繋がるように、 副鼻腔(ふくびくう)とよばれるいくつかの空洞がヒトの頭部には存在します。 上顎洞は、その副鼻腔の一つですね。
歯科でよく撮影するX線写真(図5)上では、点線で囲まれた領域が上顎洞になります。 上あごの奥歯の歯根の先端から、眼の下辺りまで広がっている空洞です。

5 上顎洞の位置とインプラント(X線撮影像)


上あごは広い空洞になっているんですね。その分、骨が少ないということですか。
はい。奥歯を抜歯した場合、骨の厚みが足らなくなるケースが多いです。 これは(図5)上顎洞の真下まで、ぴったりの長さのインプラントを埋めたケースです。 点線部分(上顎洞底)の上方には骨がありませんから、そこを超えてインプラントは入れられません。


なるほど。もしもう少し骨が少なかったら、インプラントが入れられないですね。 その場合は、どのようにするのですか?
次の患者さんは、左上の奥歯にインプラント治療を計画しています。(図6) 手術前 (図6上段)X線写真を見てください。 インプラントを入れたい部分の骨の厚みはわずか12mm程度しかありません。 そのため、インプラント埋入手術前に上顎洞底挙上術、 いわゆる「サイナスリフト」という骨を作る処置を行いました。 白く写っているところが、人工的な骨補填材で造成した部分になります。 (図6下段) この後、約6ヶ月程度で新しい骨ができ、インプラントを支えられるようになります。

6 サイナスリフト術前術後比較


確かにサイナスリフト後は、インプラントが空洞に飛び出ないような厚みの骨になっていますね。 どこから骨になる材料を入れるのですか?
上顎洞は鼻腔のとなりにありますが、お口の中から手術をします。 インプラントをするあごの骨の一部に穴を開け、そこから骨補填材を入れていきます。(図7右上)
上顎洞の内側には非常に薄い粘膜が覆っています。それを小さく開けた穴から丁寧にはがしていき、 粘膜と骨の間に骨移植材料を入れていくのですが、繊細な手技になりますので少し技術が必要です。 大きく穴をあければ処置はしやすいのですが、私の場合は5mm径くらいの小さい穴で行います。 この方が手術侵襲が少ない分、術後の腫れも少なく患者さんも楽なようです。
この患者さんの場合は、骨の厚みが5mm程度ありましたので、サイナスリフトと同時にインプラント埋入手術も行いました。 (図7)

7 サイナスリフトとインプラント同時埋入手術


サイナスリフトとインプラント埋入手術を同時にする場合としない場合は、どうやって分けていますか?
残っている骨の厚みで決めています。(表1)3mm以上の骨が残っていれば同時にインプラント埋入が 可能な場合があります。骨造成とインプラント埋入を一緒に行うほうが、治療の期間の短縮にもなりますし、手術回数も減らせます。
残存している骨が薄いのに、インプラントを同時に埋入してしまうと、上顎洞内にインプラントが迷入してしまう(落ちてしまう)こともあり、そうなると摘出が難しいこともあります。
骨のない部分に、1から骨を作る治療ですから、治療期間の短縮よりも、インプラント治療の確実性を重視して、慎重に判断して行う必要があります。
残存骨量
術式
同時埋入
インプラント治癒期間
<3mm
サイナスリフトのみ
×
1012ヶ月
37mm
サイナスリフト併用
612ヶ月
710mm
ソケットリフト併用
4〜6ヶ月
10mm<
通常埋入
3〜4ヶ月
表1 残存骨量と術式選択
骨が7mm以上ある場合には、ソケットリフトと呼ばれる方法で骨を増やすこともできます。 こちらの方がサイナスリフトと比べて比較的シンプルな処置になります。(図8)

8 ソケットリフトによる上顎洞底挙上術


この手術が行えない場合もあるのでしょうか、それはどのような場合ですか?
副鼻腔への治療ですので、もともとお鼻に病気がある患者さんは、手術ができないこともあります。 具体的には副鼻腔炎(蓄膿症)など、上顎洞に細菌感染のリスクが高い場合です。 また花粉症アレルギー鼻炎のある場合は、 症状が落ち着いてから行うことになります。 喫煙も術後の細菌感染の大きなリスクになりますので、少なくとも手術前後はしばらく禁煙が必要です。 判断が難しい場合には耳鼻咽喉科の先生とご相談して決めます。




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執筆者略歴
歯科医師(東北大2002年卒)・歯学博士(東京医科歯科大2006年修了)
公益社団法人日本口腔インプラント学会専門医日本口腔インプラント学会 関東甲信越支部・東京






治療方法
上顎洞底挙上術 (サイナスリフト;Lateral approached Sinus augumnentation
利点
・骨量がかなり少ない上顎臼歯部にもインプラントが適応できます。
欠点

・鼻疾患のある場合は、術前に耳鼻咽喉科での治療が必要なことがあります。
喫煙による創部治癒の遅延から、細菌感染を起こすことがあります。
術中に上顎洞粘膜が大きく破れた場合は、再度手術が必要なこともあります。
・インプラントを同時埋入できる場合もありますが、残存骨量によっては別々に手術を行なうことになります。
費用について
片顎:¥150,000(税別)

例)片顎の上顎臼歯に対して、サイナスリフト(上顎洞底挙上術)を行い、2本のインプラントで3歯分の上部構造をつくる場合
インプラント埋入手術:¥200,000 x2
サイナスリフト ¥150,000
上部構造:¥150,000 x2 ¥100,000 x1(ポンティック部分)


上顎臼歯部の骨量が少なくて、インプラント治療が困難な場合②
治療方法
上顎洞底挙上術 (ソケットリフト;Crestal approached Sinus augumnentation
利点
・骨量が少ない上顎臼歯部にもインプラントが適応できます。
・インプラント埋入手術と同時に行なえます。
欠点
・鼻疾患のある場合は、術前に耳鼻咽喉科での治療が必要なことがあります。
喫煙による創部治癒の遅延から、細菌感染を起こすことがあります。
術中に上顎洞粘膜が大きく破れた場合は、再度手術が必要なこともあります。
費用について
インプラント埋入部位に対して:¥30,000(税別)

例)片顎の上顎臼歯に対して、ソケットリフトを行い、2本のインプラントで3歯分の上部構造をつくる場合
インプラント埋入手術:¥200,000 x2
ソケットリフト¥30,000 x2
上部構造:¥150,000 x2 ¥100,000 x1(ポンティック部分)


*当院で使用している骨補填材について
上顎洞底挙上術での骨増生(骨移植)で使用する移植材料としては、口腔内から採取する自家骨以外に、以下の骨補填材料を使用しています。

商品名
一般名
骨補填材
バイオス
Bio-Oss
(Geistlich, Swiss)
脱タンパク牛骨ミネラル
非吸収性骨再生材料
(ウシ由来)
天然由来のウシの骨を15時間以上に及び高熱で処理し、タンパク質やその他の有機質成分が存在しない状態にした製品です。日本では1999年に認可が申請され、201112月にようやく厚生労働省に認可されましたが、海外ではすでに広く使用されている、実績のある移植骨です。
インプラント治療に使用する場合は、適応外使用となるため患者さんの同意が必要です。
テルフィール
Terufill
(OLYMPUS,Japan)
β-リン酸三カルシウム
(β-TCP)
人工的に合成されたβ-TCP(β-リン酸三カルシウム)を主成分としています。移植後に体に吸収され、骨に置き換わるとされています。日本では医科用としてオスフェリオンが先に認可され、整形外科領域で10年以上にわたって使用されています。歯科用としては、テルフィール(オスフェリオンデンタル)が近年認可されました。
インプラント治療に使用する場合は、適応外使用となるため患者さんの同意が必要です。
メンブレン
バイオガイド
Bio-Gide
(Geistlich, Swiss)
吸収性コラーゲンメンブレン
吸収性歯周組織再生用材料
(ブタ由来)
 ブタのコラーゲンを用いたシート状の吸収性材料です。口腔内の患部に被覆し、歯周組織の再生を図る目的で使用します。骨補填材を保護し、合併症を最小限にするための材料です。バイオスとともに厚生労働省の認可を得ています。インプラント治療に使用する場合は、適応外使用となるため患者さんの同意が必要です。
ジーシーメンブレン
GC MEMBRANE
(GC,JAPAN)
組織再生用吸収性メンブレン
(乳酸/グリコール酸共重合体)
合成高分子材料を使用した吸収性メンブレンです。歯周病に対する組織再生治療(GTR法)で主に使用されます。日本国内製品で歯周組織再生のための材料として厚生労働省の認可を得ています。インプラント治療に使用する場合は、適応外使用となるため患者さんの同意が必要です。